顎関節症(TMD)1〜4型を専門的にわかりやすく解説

顎関節症(TMD)1〜4型を専門的にわかりやすく解説
- 顎関節症とは何か?
- 原因・タイプ分類(1〜4型)
- クリック音の正体
- 円盤前方転位(3型)の分かりやすい解説
- 当院で行うリハビリテーション・姿勢指導
ご無沙汰してしまっております。院長の島です。
今回は顎関節症について詳しく説明していこうと思います。顎関節症は進行する病気なので正しい知識と対応が必要です。皆様の顎関節の問題にお役に立てれば幸いです。
■ 顎関節症とは?
顎関節症(TMD)は、
「顎の筋肉」「関節の靱帯」「関節円板(軟骨)」「下顎の位置」「生活習慣」
などが複合して起こるトラブルの総称です。
代表的な症状:
- 顎が痛い
- 口が開きにくい
- クリック音(カクッ、コキッ)が鳴る
- 朝起きると顎が疲れている
- 噛むとこめかみ〜耳の前が痛い
特に スマホ姿勢・頬杖・歯ぎしり などの生活習慣が大きく関係します。
■ TMDの代表的な流れ:クリック消失までの構造変化
スマホ姿勢・頬杖・食いしばり
│
▼
下顎が後ろに押される(後方力)
│
▼
関節円板が前にずれる(円盤前方転位)
│
▼
まだ戻れる → クリック音が出る(3A)
│
▼
戻りにくくなる → クリックが小さく / 消失する
│
▼
戻らなくなる(3B)→ 開口が制限されることも
│
▼
長期化すると骨が押されて形が変わることがある(4型)
■ 顎関節症 1〜4型のくわしい解説
【1型:咀嚼筋障害(筋肉タイプ)】
—最も多い、こめかみや頬の筋肉の痛み**
咬筋・側頭筋・翼突筋などの筋が緊張した状態。
- 症状
- 朝起きたら顎が疲れている
- こめかみが痛い
- 長く噛むとしんどい
- 頭痛につながることも
- 原因
- 食いしばり
- 姿勢不良
- 夜間の噛み込み
- ストレスによる筋緊張
【2型:関節痛(関節包・靱帯)】
関節そのものの炎症による痛み
顎関節の後部組織(Retrodiscal tissue)に炎症が起きた状態。
- 症状
- 耳の前がズキッと痛む
- 開け閉めで痛い
- 大きく開けると奥が刺すように痛む
- 原因
- 下顎頭が後ろに押される癖
- 歯ぎしり・噛み締め
【3型:関節円盤前方転位(復位あり=3A / 復位なし=3B)】
—クリック音の正体は「円盤が前にずれて戻る時の音」
患者さんが最も疑問を抱くのがここになります。難しい内容もありますが頑張っていきましょう。
▼ そもそも関節円板とは?
顎関節の中には
「クッション(=関節円板/Disc)」
が存在し、
下顎頭(骨)が動く時に、
そのクッションが正しい位置で滑ることでスムーズな顎運動が成立します。
- 円盤は「前方に引っ張る筋(上側頭筋)」と
- 「後方へ戻す組織(後部結合組織)」
でバランスが取れています。
▼ 円盤前方転位とは?
円盤が本来より前にずれてしまう状態です。
スマホ姿勢、頬杖、うつ伏せ、噛みしめが続くと
下顎頭が後ろへ押される → 前に押し出された円盤が戻りにくくなる。
これが「円盤前方転位」です。
▼ 3A:前方転位(復位あり)=クリックが鳴る状態
- クリック音の正体
- 開ける時に、下顎頭が前へ滑り出す
- その瞬間に円盤を“乗り越えて”正しい位置に戻る
→ 「カクッ」と音が鳴る
- この段階の特徴
- 痛みがある場合とない場合がある
- クリックが一定ではなく「鳴ったり鳴らなかったり」
- なぜクリックが小さくなったり消えたりするのか?
- 円盤の位置がより前へ移動し、戻りにくくなる
- 下顎頭の動きがズレてくる
- 周囲の筋が緊張して下顎頭の動きが制限される
つまり
「音が消えたから治った」わけではなく、戻らなくなってきたサインの場合もある
という点が重要です。
▼ 3B:前方転位(復位なし)=クリックがない/開けにくい
- 状態
- 円盤が前にずれたまま
- 下顎頭がその“引っかかり”を乗り越えられない
- そのため
→ 開口量が減る(指1〜2本分になることも!)
- 症状
- 開けにくい
- 急に口が開かなくなった
- 大きく開けようとすると引っかかる
例えるならば、「ドアのストッパーが前に倒れていて、扉がそれ以上開けない状態」です。
▼ 長期間続いた場合の変化(4型への流れ)
- 円盤が薄くなる
- 下顎頭の形が平坦化する
- 骨が硬くなり、動きが制限されやすくなる
これらは
長い年月をかけて少しずつ変化するものであり、
急に起こるものではありません。
▼ 3型で最も重要なのは「動かし方」と「生活習慣」
しま歯ならび矯正歯科では、以下の“動きのリハビリ”を重視:
- コントロールドオープニング(まっすぐ開く運動)
- 閉口筋・開口筋の協調運動
- 顎運動のガイドトレーニング
- スマホ姿勢・頬杖の改善指導
- 夜間の噛みしめ対策
なぜ運動が重要なのか?
→ 円盤の位置は「動かし方」で変わりやすく、顎運動が正しい軌道に戻ると負担が減り、改善することも少なくありません。
専門的な知識だけでなく、
“日常生活の癖改善+運動療法”
が大きく影響します。
【4型:変形性顎関節症(TMJ Osteoarthritis)】
— 顎関節の“骨の変形”が起こる段階(最新の研究をもとに大ボリューム解説)**
顎関節症の 4 型は、
「関節円板の位置異常が長期間続くことで、骨に変化が起こる段階」
と定義されています(Okeson 2019 / Schiffman 2014)。
単なる炎症ではなく、骨のリモデリング(形態変化)を伴う関節疾患です。
■ 4型で実際に起こる“骨の変形”とは?
研究では、以下のような形態変化が確認されています。
- ① 下顎頭の平坦化(Flattening)
- 下顎頭の丸みが失われ、表面が平らになる
- 長期的な関節負荷に対する適応と考えられています
出典:Larheim TA. Radiology 2018
- ② 骨硬化(Sclerosis)
- CT画像で白く硬い部分が増える
- 骨がストレスに適応し「強く硬くなる」反応
出典:Tanaka E., J Oral Biosci 2008
- ③ 骨棘(Osteophyte)
- 関節の縁にトゲ状の骨ができる
- 関節負荷を分散させる生体の“補強反応”
出典:Manfredini D., J Oral Rehabil 2019
- ④ 下顎頭の吸収(Erosion / Resorption)
- 骨表面が削れたように見える
- 痛みや可動域制限と関係することが多い
出典:Alexiou K., Dentomaxillofac Radiol 2009
■ 4型は“炎症性の関節症”ではない
最新分類では OA(変形性関節症)として扱われる
Schiffman ら(DC/TMD 2014)による現在の標準分類では、
4型は「Degenerative Joint Disease(DJD)」区分に入れられています。
- 炎症(2型)との違い
|
2型(Capsulitis) |
4型(Osteoarthritis) |
|
炎症中心 |
骨の変形中心 |
|
痛みが鋭い(刺す感じ) |
痛みは鈍く、動作時に増す |
|
画像変化はほぼない |
CTやMRIで形態変化が明確 |
=性格が全く違う病態。
■ 4型へ進行する主要因(論文ベース)
複数論文(Manfredini 2019 / Yatani 2002 / Murakami 2009 など)で共通して示されているのは、
① 円盤前方転位(特に 3B)が長期間続くこと
- 復位しないため、下顎頭と円板の間が適切にクッションされない
- 骨同士の接触が起こり、慢性的な力学ストレスが加わる
- 結果として形態変化が進行
出典:Murakami K., Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol 2009
② 態癖(頬杖・うつ伏せ寝)が下顎頭を後方に押す
- 下顎頭が後ろに押される → 円盤が前へ押し出される
- 後方の軟組織が慢性的に圧縮され血流が低下
- 変性が進むことで OA に移行しやすくなる
出典:Isberg A., TMJ Dysfunction 2003
特に「頬杖」と「片側噛み」は
骨変形のリスクを高める生活習慣として複数研究が指摘しています。
③ 咬合の不調和・歯列の非対称性
下顎の動きの偏り → 片側の関節への負荷増大
出典:Alexiou K. 2009
④ 加齢による軟骨変性
70代では画像の 70%以上に OA 所見があるという報告も。
出典:Larheim 2018
■ 4型の主な症状(患者向けにわかりやすく)
- ガリガリ・ジャリジャリした音 (クレピタス)
- 動かし始めにこわばる
- 朝よりも午後の方が痛む(“使用で悪化”が特徴)
- 口を開けるとジワッと痛む
- 下顎が左右どちらかに曲がって開くことがある
クリック音がないのが特徴
→ 円盤が前に固定されているため。
学術的には、OAは
退行性変化と適応的リモデリングが混在した病態
とされています。
研究でも、
生活指導+運動療法+スプリントで症状が改善し、進行がほぼ停止する例が多い
ことが示されています。
出典:Tanaka E. 2008、Murakami K. 2009、Manfredini D. 2019
■ しま歯ならび矯正歯科における 4型へのアプローチ
① 顎運動リハビリテーション(最重要)
骨変化がある場合は “正しい軌道で動く”ことが不可欠。
- コントロール開口訓練
- 下顎頭の前方滑走を誘導する運動
- 側方偏位を減らすガイド運動
- 開口時の筋協調トレーニング(特に外側翼突筋・顎舌骨筋)
研究では、適切な運動療法は痛みの軽減と機能改善に有効とされています(Yoshida 2014)。
② 生活習慣・態癖の矯正
- 頬杖の禁止
- 下顎を後方に押さない姿勢
- スマホ首・猫背の矯正
- 片側噛みの是正
※ 態癖改善は 4 型の症状安定化に最も効果が高い因子の1つ
(Isberg 2003 / Yatani 2002)
③ スプリント療法(夜間中心)
- 関節負荷の軽減
- 筋緊張の低下
- 夜間の噛みしめ抑制
特に Stabilization Splint は OA の痛みに効果
出典:Tanaka E., Oral Sci Int 2008
■ まとめ:4型は「進行した状態」だが“コントロール可能な疾患”
専門的には、4型は変形を含む段階ですが、
- 運動療法
- 生活指導
- スプリント
の組み合わせで
症状の改善や進行の抑制は十分に期待される
というのが現在の国際的コンセンサスです。
■ 当院(しま歯ならび矯正歯科)の顎関節症治療の特徴
- 姿勢・態癖の徹底分析(頬杖・寝方・スマホ姿勢)
- 運動療法(リハビリ)のマンツーマン指導
- 矯正治療と顎関節治療を統合
- セファロ・CTで構造を詳細に分析
- 患者さんごとに考慮した生活指導
「構造 × 動き × 習慣」
の3軸からアプローチするのが当院の強みです。
■ 引用文献(主要)
- Huang GJ., J Dent Res., 2016
- Isberg A., Temporomandibular Joint Dysfunction, 2003
- Manfredini D., J Oral Rehabil., 2019
- Yatani H., J Prosthet Dent., 2002
- Murakami K., Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol, 2009
当院のホームページはコチラ↓
【公式】しま歯ならび矯正歯科|堺市の矯正歯科 (shima-ortho-clinic.com)
予約フォームはコチラ↓
