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医療コラム

歯並びに対するバクシネーターメカニズムと口呼吸の関係性|しま歯ならび矯正歯科【公式】|堺市・鳳駅の矯正歯科

歯並びに対するバクシネーターメカニズムと口呼吸の関係性

―呼吸と口腔周囲筋機能から考える歯列形成の基盤―

 

目次
はじめに
バクシネーターメカニズムとは何か
舌圧・頬筋圧・口唇圧の均衡
口呼吸が口腔機能に及ぼす影響
口呼吸と歯列不正の関連
矯正治療における呼吸評価の重要性
臨床で確認したいポイント
まとめ
参考文献
1. はじめに

歯並びは、単に歯そのものの問題だけで決まるわけではない。歯は骨の中に埋まっているように見えて、実際には舌、頬、口唇、咀嚼、嚥下、呼吸といった複数の機能の影響を受けながら位置を保っている。矯正歯科では、歯列の形態だけでなく、その背景にある機能を考えることが重要になる。とくに、頬筋を中心としたバクシネーターメカニズムと、口呼吸の持続による口腔周囲機能の変化は、歯列弓形態や咬合の安定性を考えるうえで無視しにくい要素である(Proffit, 1978;Perkins et al., 1977)。

ただし、この領域には単純化しすぎてはいけない点も多い。口呼吸があるから必ず歯並びが悪くなる、あるいは頬筋が強いから必ず歯列が狭くなる、といった言い方は適切ではない。実際には、遺伝、骨格成長、鼻閉、口腔習癖、舌位、姿勢、睡眠の質などが絡み合っている。したがって、臨床では「原因を一つに決めつけないこと」が重要になる。

本稿では、バクシネーターメカニズムと口呼吸の関係を、できるだけ学術的に、しかし患者さんにも伝わる言葉で整理する。

2. バクシネーターメカニズムとは何か

バクシネーターメカニズムとは、頬筋や口輪筋など、口の外側に位置する筋群がつくる力のまとまりを指す概念である。これらの筋は、咀嚼や嚥下、発音の際に働くだけでなく、歯列の外側からの圧環境にも関与すると考えられている。古典的な筋電図研究では、頬筋群がさまざまな口腔運動時に協調して活動し、歯列に対して抑制的な力を及ぼしうることが示された(Perkins et al., 1977)。

また、動物実験では、頬筋の収縮により頬側の組織に圧が生じることが示されている。Dutraらの研究では、頬筋が収縮すると頬部が厚くなり、歯槽部の付着部位に陽圧が観察された(Dutra et al., 2010)。この結果は、頬筋が単なる受動的な組織ではなく、歯列の幅や位置に関わる機械的因子となりうることを示唆している。

ただし、ここで注意したいのは、頬筋が単独で歯列を決めているわけではないという点である。頬筋の活動は、舌、口唇、下顎運動、食塊形成などと連動しており、どの筋がどの程度寄与するかは個人差が大きい。したがって、バクシネーターメカニズムは「歯を押し込む力」と単純に捉えるのではなく、歯列の外側環境を形成する機構のひとつとして理解するのが妥当である。

3. 舌圧・頬筋圧・口唇圧の均衡

歯列の形態は、舌が内側から与える力と、頬や口唇が外側から与える力の均衡の中で成立する、という考え方がある。矯正歯科の文脈では、この「筋の平衡」が歯列弓の安定性に関与すると考えられてきた。StatPearls でも、舌の外向きの力と口輪筋・頬筋の内向きの力がバランスをとることが示されている(StatPearls, Buccinator Muscle)。

舌は、安静時に口蓋に接していることが多い。舌が十分に上方に位置すると、上顎歯列弓の発育を内側から支えるように働く可能性がある。一方で、舌が低位にある、あるいは前方へ押し出されるような癖がある場合には、その均衡が崩れやすい。近年のレビューでも、舌位の異常が歯列弓や咬合の形成に関連しうることが整理されている(Zaghi et al., 2024)。

ここで重要なのは、舌圧と頬筋圧の関係を「どちらが強いか」で単純に比較しないことである。歯列は力の大きさだけでなく、力の方向、持続時間、発育期のタイミング、個々の骨格形態によって影響の受け方が異なる。つまり、同じ筋圧の変化でも、ある人では問題が表面化し、別の人では目立たないことがある。これが臨床で議論が分かれやすい理由でもある。

4. 口呼吸が口腔機能に及ぼす影響

口呼吸は、鼻呼吸とは異なる筋活動と姿勢を伴う。鼻で呼吸できる場合、口唇は閉じやすく、舌は口蓋に安定しやすい。これに対し、口呼吸が続くと口唇閉鎖が不十分になりやすく、舌は低位へ移行しやすいとされる(Abreu et al., 2008)。

2024年の研究では、思春期の口呼吸者では、鼻呼吸者に比べて口唇閉鎖力、舌圧、咀嚼効率が低い傾向が示されている(Masutomi et al., 2024)。この結果は、口呼吸が単なる「息の仕方」ではなく、口の周りの筋機能そのものに影響を与えうることを示している。

また、口呼吸では口腔内が乾燥しやすくなる。唾液には洗浄作用、緩衝作用、抗菌作用があるため、慢性的な口腔乾燥はむし歯や歯肉炎のリスクを上げる可能性がある。さらに、口呼吸は睡眠時無呼吸やいびき、鼻閉、アデノイド肥大などの背景と関連することもあり、単独で考えるべきではない。口呼吸を見つけたときは、呼吸経路の問題だけでなく、睡眠や耳鼻咽喉科的な問題も念頭に置く必要がある。

顔面形態との関係についても、口呼吸が下顔面高の増加や下顎の後下方回転と関連する可能性が報告されているが、これらはすべての症例に一律に当てはまるわけではない(Lin et al., 2022)。したがって、口呼吸を「顔貌を決める唯一の原因」とするのは不正確である。

5. 口呼吸と歯列不正の関連

口呼吸と歯列不正の関係については、多くの研究が報告されている。口呼吸児では、開咬、後方交叉咬合、上顎前突傾向、狭窄歯列弓などが比較的多いとする報告がある(Pierson et al., 2024)。また、口呼吸に伴って低位舌や口唇閉鎖不全が続くと、歯列弓の内外バランスに影響を与えうるという整理もされている(Lin et al., 2022;Zaghi et al., 2024)。

ただし、ここでも因果関係の言い過ぎには注意が必要である。口呼吸と歯列不正は関連しうるが、口呼吸だけで歯列不正が起こるわけではない。たとえば、鼻閉が強い子どもは口呼吸になりやすいが、同時に姿勢の変化や睡眠の質低下、咀嚼の偏りなども起こりうる。こうした複数の変化が重なって、結果として咬合や顎顔面形態に影響する可能性がある。

日本矯正歯科学会の指針でも、口呼吸やいびきなどの習癖が認められる場合には、関連疾患の有無を評価し、必要に応じて耳鼻咽喉科などへの紹介を検討することが示されている(日本矯正歯科学会, 2022)。このことからも、口呼吸は「癖だから様子を見る」で済ませるより、背景要因を探るべき所見と考えたほうがよい。

6. 矯正治療における呼吸評価の重要性

矯正治療は、歯を並べるだけで完結するものではない。治療後に安定した歯列を維持するためには、その歯列を取り巻く機能環境が整っていることが前提になる。もし口呼吸が持続し、低位舌や口唇閉鎖不全が残っていれば、歯列は再び不安定な力学の影響を受ける可能性がある。

そのため、治療前には呼吸様式を確認することが重要である。鼻が通っているか、寝ている間に口が開いていないか、いびきがないか、食事中の咀嚼は左右均等か、飲み込むときに舌が前へ出ていないか。こうした情報は、歯列弓の形態や矯正治療方針を考えるうえで有用である。

口腔筋機能療法については、舌位や口唇閉鎖の改善を目的として用いられることがある。ただし、その有効性には一定の報告がある一方で、研究方法や症例数の違いもあり、現時点で過度に断定することはできない(Villa et al., 2025)。したがって、筋機能訓練は万能薬ではなく、鼻閉の評価や生活習慣の調整と組み合わせて考えるべきである。

7. 臨床で確認したいポイント

臨床では、以下のような所見がある場合に呼吸機能の評価を考える価値がある。

口唇閉鎖が弱い
日中も口が開きやすい
睡眠時に口が開いている
いびきがある
舌が低い位置にある
上顎歯列弓が狭い
開咬がみられる
交叉咬合がある

これらは単独では診断にならないが、複数が重なると、口呼吸や口腔周囲筋機能の影響を疑う根拠になる。とくに成長期では、歯列だけでなく顔面の発育も関係するため、早めに気づくことに意味がある。

また、口呼吸を認めた場合には、原因を確認することが大切である。アレルギー性鼻炎、鼻中隔の問題、アデノイド肥大、扁桃肥大など、鼻咽腔側の問題が背景にあることもある。原因が残ったままでは、矯正治療後も同じ環境に引き戻される可能性がある。

8. まとめ

バクシネーターメカニズムは、頬筋を中心とした口腔外側の筋機構であり、歯列に対する外側からの圧環境に関与しうる。舌圧、口唇圧、頬筋圧の均衡が保たれていることは、歯列の安定にとって重要であると考えられる。

一方、口呼吸はこの均衡を崩し、低位舌、口唇閉鎖不全、咀嚼効率低下、口腔乾燥などを通じて、歯列不正や顎顔面形態に影響しうる。ただし、その影響は一律ではなく、多因子的であるため、単純な因果関係として断定するべきではない。

矯正歯科においては、歯並びだけを見るのではなく、呼吸、舌位、口唇閉鎖、咀嚼、嚥下を含めて評価することが重要である。呼吸は生命維持機能であると同時に、歯列形成の土台でもある。歯を動かす前に、その歯が並ぶ環境を見直すことが、安定した治療につながる。

9. 参考文献

Proffit WR. Equilibrium theory revisited. J Dent Res. 1978.
Perkins RE, Blanton PL, Biggs NL. Electromyographic analysis of the “buccinator mechanism” in human beings. J Dent Res. 1977.
Dutra MEH, Caria PHF, Rafferty SW, Herring SW. The buccinator during mastication: a functional and anatomical evaluation in minipigs. Arch Oral Biol. 2010.
Abreu RR et al. Mouth breathing and dentofacial development. 2008.
Lin B et al. The impact of mouth breathing on dentofacial development: a concise review. 2022.
Masutomi Y et al. Mouth breathing reduces oral function in adolescence. 2024.
Pierson V et al. Mouth Breathing and Its Implications for Dental Malocclusion: A Systematic Review. 2024.
Zaghi S et al. The influence of tongue posture on malocclusion. 2024.
Villa MP et al. Orofacial myofunctional therapy: a scoping review. 2025.
日本矯正歯科学会. 矯正歯科治療における標準治療の指針. 2022.

 

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