小児のマウスピース矯正とは
- 2025年9月22日
- お知らせ
【第1章】なぜ小児矯正が必要なのか?
1-1. 子どもの歯並びが乱れる理由
子どもの歯並びの乱れには、主に以下の2つの要因があります:
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遺伝的要因:親から引き継がれる顎の大きさや形、歯のサイズなどが原因で歯並びが乱れることがあります。たとえば、顎が小さく歯が大きいと、歯が並ぶスペースが足りず、ガタガタの歯並び(叢生)になります。
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環境的要因:指しゃぶり、頬杖、口呼吸、舌の癖(舌突出癖)、爪を噛む癖などの習慣が長期にわたると、顎や歯に偏った力がかかり、歯並びが悪くなってしまいます。
1-2. 小児期の矯正の目的
小児矯正の最大の目的は、「顎の成長や歯の生え変わりを正しい方向に導くこと」です。顎の成長をコントロールしながら歯並びを整えることで、より理想的な口腔内環境を形成します。大人になってからでは、骨格的なズレを改善するのは難しく、外科的手術が必要になることもあります。そのため、成長期に行う矯正治療には非常に大きな意義があります。
1-3. 小児矯正の適応時期
小児矯正には「第一期治療」と「第二期治療」があります。第一期治療は6歳頃から開始されることが多く、永久歯が生え揃う前に顎の成長をコントロールします。第二期治療は、12歳前後以降に行う本格的な歯の移動を目的とした矯正です。
【第2章】マウスピース矯正とは?
2-1. マウスピース矯正の基本
マウスピース矯正とは、透明で目立たない取り外し可能なアライナーを一定期間ごとに交換しながら歯を少しずつ動かしていく矯正方法です。従来のワイヤー矯正と違い、見た目が自然で、装置による不快感や痛みが少ないのが特徴です。
2-2. 小児向けのマウスピース矯正装置
現在、子ども向けのマウスピース矯正装置には以下のような種類があります:
装置名 | 対象年齢 | 特徴 |
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プレオルソ | 5~12歳 | 柔らかい素材で装着感がやさしく、口腔筋機能の訓練にもなる |
T4K | 5~10歳 | 舌や口周りの筋肉の訓練と歯列のガイドを兼ね備えた装置 |
インビザライン・ファースト | 6歳以降 | 歯の動きを詳細に設計可能で、複雑な症例にも対応可 |
【第3章】マウスピース矯正のメリットとその根拠
3-1. 見た目が自然
透明で目立たないため、周囲に気づかれにくく、思春期の子どもでも見た目を気にせず矯正を続けられます。特に学校生活での対人関係において、自信を持てることは大きなメリットです。
3-2. 痛みや違和感が少ない
マウスピース矯正は力のかかり方が緩やかで、歯や歯茎への負担が少ない設計になっています。ワイヤー矯正のようにブラケットが口の中を傷つける心配もなく、口内炎のリスクも低減されます。
3-3. 取り外しができて衛生的
食事や歯磨きの際に取り外せるため、口腔内を清潔に保ちやすく、虫歯や歯周病のリスクが少なくなります。また、歯のクリーニングもスムーズに行えます。
3-4. 口腔筋の機能訓練が可能
プレオルソやT4Kのような装置は、単に歯を動かすだけでなく、舌や口唇の正しい動きを訓練する設計になっています。これにより、口呼吸や舌癖を改善し、矯正後の後戻り防止にも役立ちます。
3-5. 顎の成長をサポート
小児期のマウスピース矯正は、顎の骨の成長をサポートしながら歯列を整えることができるため、歯を抜かずに済む可能性が高くなります。
【第4章】マウスピース矯正のデメリットと注意点
4-1. 装着時間の管理が必要
マウスピース矯正は1日20時間以上の装着が推奨されます。取り外しができる反面、自己管理ができないと十分な効果が得られません。特に幼児や小学校低学年では、保護者のサポートが不可欠です。
4-2. 重度の症例には不向き
重度の骨格的な異常(たとえば著しい受け口や出っ歯)には、マウスピース矯正だけでは対応が難しいことがあります。その場合、ワイヤー矯正や外科的処置が必要になるケースもあります。
4-3. 装置の紛失や破損
取り外しが可能なぶん、子どもが紛失したり壊してしまうリスクもあります。食事の際に装置をティッシュに包んで捨ててしまうというケースも多く報告されています。
4-4. 費用が高くなる可能性
症例によっては、ワイヤー矯正よりも費用が高額になる場合があります。特にインビザライン・ファーストのような精密なマウスピース矯正では、装置代や技術料が反映されやすいです。
4-5. 効果の実感に時間がかかることも
マウスピース矯正は緩やかに歯を動かしていくため、目に見える効果が出るまでに時間がかかる場合があります。子どもが飽きてしまわないよう、経過を記録するなどしてモチベーションを維持する工夫が大切です。
【第5章】どんな症例に適しているか?
5-1. 適応症例
マウスピース矯正は、比較的軽度〜中等度の歯列不正に対して高い効果を発揮します。以下のような症例に適しています:
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軽度〜中等度の叢生(歯のガタガタ)
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上顎前突(出っ歯)
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開咬(前歯が噛み合わない)
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交叉咬合(左右の噛み合わせのズレ)
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歯と歯の間に隙間がある空隙歯列
5-2. 不適応症例
以下のような症例は、マウスピース矯正単独では難しく、他の装置や方法を併用する必要があります:
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骨格性の著しい反対咬合(下顎前突)
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顎の非対称が強い場合
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奥歯の大きなズレや咬合崩壊
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成長期における外科的介入が必要なケース
【第6章】治療の流れと通院頻度
6-1. 初診相談とカウンセリング
治療は、まず初診相談から始まります。歯科医師が口腔内をチェックし、必要に応じてレントゲン撮影を行い、顎の成長や歯の並び方、噛み合わせの状態を確認します。 この段階でマウスピース矯正の適応かどうかが判断されます。
保護者の方への説明も丁寧に行われ、治療方針・期間・費用についての説明がされます。不安や疑問を解消できる大切なステップです。
6-2. 精密検査と診断
治療を進めると判断された場合、次に精密検査が行われます。
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歯列の模型作成(スキャンまたは印象採取)
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顎の成長予測を含むレントゲン撮影(セファロ分析)
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口腔内写真撮影、顔貌写真撮影
これらのデータをもとに詳細な診断を行い、お子さま専用の治療計画が立てられます。
6-3. マウスピースの製作と装着
治療計画に基づき、専用のマウスピース(アライナー)を作成します。マウスピースは数週間ごとに新しいものに交換され、少しずつ歯を理想の位置へと導いていきます。
プレオルソやT4Kなどの既製型タイプの場合は、その場で調整し装着することも可能です。
6-4. 治療中の通院頻度
治療開始後は、通常1カ月に1回程度の通院が必要です。通院では以下のようなことが行われます:
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装着状況や使用時間の確認
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歯や顎の動きのチェック
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必要に応じて装置の調整や交換
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保護者とお子さまへのモチベーション支援
治療内容や装置の種類によって、通院頻度や内容は若干異なります。
6-5. 治療期間の目安
小児のマウスピース矯正は、第一期治療として約1~2年が一般的です。永久歯が生え揃ってから第二期治療へ進むこともあり、その際はワイヤー矯正などの選択肢も含めて再評価されます。
治療期間は、お子さまの成長スピードや協力度、症状の程度によって異なるため、定期的なチェックと柔軟な対応が重要です。
【第7章】家庭でのサポートと保護者の役割
7-1. 保護者のサポートが成功のカギ
小児マウスピース矯正の成否は、日常生活における継続的な装着とケアにかかっています。子ども自身が毎日の装着を自律的に行うことは難しいため、保護者の方の積極的な関与が必要不可欠です。
特に就寝時の装着忘れや学校での取り扱い、紛失などを防ぐために、家庭での声かけや習慣づけが必要です。
7-2. 装着状況のチェックと声かけ
装着時間は最低でも1日20時間以上が目安です。朝と夜に保護者が装着を確認することで、安定した使用習慣が身につきます。
例:
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朝「ちゃんと外して歯磨きした?片づけた場所覚えてる?」
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夜「今日は学校から帰ってきてすぐつけた?痛みはない?」
こうした確認の積み重ねが、子どものモチベーションと習慣形成につながります。
7-3. 紛失・破損時の対応
装置を誤って捨てたり、踏んで壊してしまうこともあります。もしものときのために、保管ケースの使用と、学校や家庭での扱い方をあらかじめ子どもと一緒に確認しておくとよいでしょう。
保護者が代替装置の手配や再診予約を速やかに行えるよう、連絡先や対応フローを把握しておくことも大切です。
7-4. 食事や歯磨きの習慣管理
食事の際はマウスピースを外す必要があります。外した後は必ず歯磨きをしてから再装着するよう指導してください。食べかすや糖分が装置内に残ると、虫歯や歯周病の原因になります。
歯磨きは親子で一緒に行うことが推奨されます。特に小学校低学年までは仕上げ磨きを続けることで、清掃不良のリスクを減らせます。
7-5. ポジティブな声かけと共感
子どもは「なぜ矯正をしなければいけないのか」が理解できないこともあります。「かっこいい笑顔のためだよ」「大人になったときに困らないようにしようね」といった前向きな声かけが重要です。
痛みや違和感があるときには、「つらいね。でもすぐ良くなるよ、一緒に頑張ろう」と共感の言葉を添えることで、安心感を与えることができます。
【第8章】治療費と保険制度の現状
8-1. 小児マウスピース矯正の費用相場
マウスピース矯正の費用は、装置の種類や治療の期間・内容により異なりますが、おおよその相場は以下の通りです。
装置名 | 治療費の目安(税別) |
プレオルソ | 約5万円〜 |
T4K | 約5万円〜 |
インビザライン・ファースト | 約30万円〜 |
これに加えて、初診料・検査診断料・通院ごとの調整料などが別途かかる場合があります。
8-2. 保険適用の可否
小児のマウスピース矯正は、基本的に**自由診療(保険適用外)**です。ただし、以下のような特定のケースにおいては保険適用される可能性があります:
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厚生労働省が定めた**先天異常(唇顎口蓋裂、ダウン症など)**がある場合
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顎変形症と診断され、外科的矯正が必要な症例で大学病院等の施設基準を満たした医療機関で治療を受ける場合
これら以外の一般的な矯正治療は、公的医療保険の対象にはなりません。
8-3. 医療費控除の対象になるか?
小児矯正は「治療を目的として行う場合」に限り、医療費控除の対象になります。審美目的では控除対象にはなりませんが、
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噛み合わせの改善
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発音や咀嚼機能の向上
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顎の成長誘導など
上記を目的とした診断がある場合には、確定申告で医療費控除を受けることができます。
8-4. 自費診療に関する注意点
自費診療の場合、費用の総額が明確であること、分割払いやクレジットカード払いの可否なども確認しておくことが大切です。また、矯正治療は長期間にわたるため、装置の再製作や治療延長による追加費用の有無も事前に把握しておくと安心です。
【第9章】よくある質問(Q&A)
Q1. 何歳から始められますか?
A. 一般的には5〜6歳頃から可能です。永久歯が生え始める前後が理想的で、個々の発育状況によって最適な時期は異なります。気になる症状がある場合は、早めに歯科医師に相談しましょう。
Q2. 装置はずっとつけたままですか?
A. 就寝時と家でのリラックスタイムなど、1日20時間以上の装着が推奨されています。食事や歯磨きの際には外してください。
Q3. 学校には装置をつけて行かせるべき?
A. プレオルソやT4Kなど一部の装置は就寝時のみで効果があるため、学校では外して問題ない場合が多いです。インビザラインなどの長時間装着が必要なタイプは、学校でも装着することになります。
Q4. 痛みはありますか?
A. 初期は違和感や軽い痛みを感じることがありますが、数日で慣れることがほとんどです。個人差はありますが、ワイヤー矯正に比べて痛みはかなり少ないと言われています。
Q5. マウスピース矯正だけで治療が終わりますか?
A. 症例によっては、第二期治療(本格矯正)でワイヤー矯正など他の方法を併用することがあります。ただし、第一期治療で顎の成長を整えておくことで、後の治療が軽減され後戻りがしにくく、非抜歯で済んだりするメリットがあります。
Q6. マウスピースが合わなくなった場合は?
A. 成長や歯の移動により合わなくなった場合は、再スキャン・再製作することが可能です。特に成長期の子どもは数ヶ月単位で変化するため、定期的な確認が重要です。
Q7. 装置の洗い方は?
A. 水や専用の洗浄剤を使って、毎日ブラッシングするのが基本です。熱湯での洗浄や歯磨き粉の使用は素材を傷める恐れがあるため避けてください。
【第10章】小児マウスピース矯正がもたらす未来
10-1. 健康な口腔機能の基礎を築く
小児期に歯列や噛み合わせ、口腔習癖を整えることで、正しい咀嚼・嚥下・呼吸・発音といった基本的な口腔機能のバランスが整います。これは、健康的な身体発達と集中力・学習能力にも良い影響を与えるとされています。
また、成長期に合わせた矯正は、無理なく顎の成長を誘導できるため、自然な形で理想的な咬合関係を築くことができます。
10-2. 将来の矯正治療を軽減できる
第一期治療としてマウスピース矯正を行うことで、永久歯が並ぶスペースを確保し、骨格的なズレを予防できます。その結果、将来の本格矯正で歯を抜かずに済んだり、矯正期間が短縮されたりするケースが増えています。
また、成長終了後に行う外科矯正や高額な再治療を回避できる可能性がある点でも、小児期の矯正は非常に有益です。
10-3. 子どもに自信と笑顔を与える
歯並びは見た目だけでなく、心の発達にも影響を与えます。綺麗な歯並びで笑顔に自信を持てることは、子どもの自己肯定感を育む大切な要素です。特に思春期を迎える前に歯並びの悩みを解消できることは、大きな精神的メリットになります。
10-4. 家族全体の健康意識が高まる
お子さまの矯正治療を通じて、家族全体が歯科・健康に対する関心を高めることができます。食生活の改善や定期検診の習慣化につながり、兄弟や保護者自身の口腔ケアにも好影響をもたらします。
10-5. 矯正は「育てる医療」へ
小児マウスピース矯正は、「悪くなった歯並びを治す」だけではなく、「成長を活かしながら、健やかな未来を育てる」医療といえます。
今後も技術の進歩により、より個別性の高い治療が可能になっていくと考えられます。早期から子どもの成長とともに寄り添いながら、より良い未来をサポートするのが、これからの矯正治療の在り方です。